文学も地質学も写真も映画も、それぞれ「時間」を取り扱う、ということは共通している。大きく違うのは時間の扱い方である。時間の流れの断面を見せるのか、それとも時間の流れのなかの点と点をつないでいくのか。そして自分の中で時間のスパンをどう設定するのかによっても、見えるものが違ってくるだろう。そんなことを考えながら、私はカメラをかつぎ、誰もいない山道を登ったり、全く知らない街角を曲がったりする。必ず思わぬ物語が転がっているので、それはいつでも面白い。だけど、それを誰かといっしょに歩いたら、もしかしたら、もっと面白い物語が見つかるのかもしれない。 _ 松本美枝子
2019年3月21日(木・祝)
今も味わい深い建築が並ぶ常陸太田市鯨ヶ丘地域には、町の日常を収めたモノクロのスナップ写真が数多く残っています。作家と一緒に町の人々が写した過去を眺めながら、写真の「その日」のことを自由に妄想します。
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2019年3月23日(土)
日本最古の地層を発見した地質学者とともに、御岩山(標高492m)と高鈴山(標高623m)の初心者向けのハイキングコースを縦走し、約5億年前のカンブリア紀の地層を見るフィールドワークを行います。
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2019年3月30日(土)
かつては城下町だった鯨ヶ丘。気鋭の映画監督・鈴木洋平は、高低差があるこの町を見て、ストーリーより先に「画」が浮かんだそう。何をどう切り取ると映画になるのか。監督とともに町をロケハンします。
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1974年茨城県生まれ。人々の日常、人間と自然環境の移動などをテーマにフィールドワークを行い、写真やテキストなどによる作品を発表する。主な展示に、中房総国際芸術祭「いちはらアート×ミックス2014」、「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」、2018年 個展「The Second Stage at GG」#46「ここがどこだか、知っている。」(ガーディアン・ガーデン)など。写真集に、詩人・谷川俊太郎とコラボレーションした『生きる』(ナナロク社)などがある。
1971年茨城県生まれ。イメージフォーラムのフェスティバルディレクター(2001-10)を経て現在はフリーランスのキュレーター。あいちトリエンナーレ(2013)、東京都庭園美術館(2015,16)、青森県立美術館(2017,18)などでキュレーション。
茨城県北サーチの一環として、文学者の西野由希子さんとともに、茨城県北地域で読書会を開くプロジェクトを始めます。第1回は「海底2万マイル」をテーマに、自由に語り合います。作品を読んでいなくても参加できます。
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茨城県では、アートを活用した地域主体のまちづくりのための事業に取り組んでいます。《メゾン・ケンポク》はその一環として、2018年12月にオープンしました。丘の上に立つ、かつて大きな料亭だった建物を活用し、長期滞在できるレジデンスと、イベントや制作活動を行うことができる設備を順次、整備中です。3階には風情のある56畳の大広間と舞台があり、窓からは常陸太田市の美しい町並みと山々を見渡すことができます。アーティストで茨城県北地域おこし協力隊の日坂奈央(ファッション・デザイン)と松本美枝子(写真家)が常駐し、ここを拠点にさまざまなアート・プロジェクトを発信していきます。
web maisonkenpoku.com | facebook @maisonkenpoku | twitter @maison_kenpoku | instagram @maison_kenpoku
茨城県常陸太田市西一町2326
Tel:080-8740-6912
JR水郡線常陸太田駅より徒歩15分/常磐自動車道日立南太田ICより車で15分
駐車場は常陸太田市郷土資料館向かいの市営駐車場をご利用ください(無料)
このプロジェクトは自身の制作において「茨城県北地域をリサーチしたい」という考えから始まった。
作品が完成することを最終目的とせず、リサーチする。つまり結局作品ができないとしても、あるいはいつか作品ができたとしても、とりあえず、先のことは置いておいて、まずは茨城県北地域を知りたい。そうやって調べていけば制作につながる何かを見つけられるかもしれない。そんな気持ちからこの計画は始まったのだった。
さらにこの計画をどう進めていくか整理するにつれて、自分自身によるリサーチではなく、他の人たちとの「協働」という形に収斂されていった。
「他の人たち」というのは、今回招聘した3人のゲストである、ノンフィクション作家の川内有緒さん、地質学者の田切美智雄さん、映画監督の鈴木洋平さん、そしてこのプロジェクトの参加者たちだ。
川内さんは初めて知る場所と人々を、田切さんは何十年も研究している自身の研究フィールドを、鈴木さんは以前から興味を持っていた空間を、参加者や私と一緒に、丁寧に考えながら歩いてくれた。サーチした場所と時間の中には何があるのか、それがどのように人につながっていくのかは、それぞれのテクストを読んでいただきたい。
最後にもう一つ、「他の人たち」には「茨城県北サーチ」に参加しなかった、でも今まさにこれを読んでいるあなたたちも含まれる。
最初に、作品ができるかどうかは置いておいて、と書いたけれども、このプロジェクトでは、関わる人たち全てによる作業そのもの、そしてそのまとめであるテクストが、作品となっていくだろう。
松本美枝子
氏名連呼ばかりの選挙カーに辟易する。トーク後Q&Aの気まずい沈黙が苦手だ。気軽で自発的な対話の場をつくりたい。これは、歩行や軽作業などに気を取られることで、発話の構えをなくそうという試みである。上記三名のゲストは実に巧みだった。ともに"不可視"に挑んでいたことも興味深かった。
作家の川内さんの会は、男性の遺品であった寄贈写真から妄想を出し合う格好。人は真実より嘘のほうが饒舌だ。遠慮がちで被写体と相対しないカメラマンの視線を皆が誤読、曲解する。切り取った一瞬を凝視して孤独を共にする。参加者はそれぞれ彼のリアリティを持ち帰った。彼を知ったわけではないのに。ないからこそ。
田切さんは地質学者で、研究対象と自分史と戦後史が日立の山々に重なるという稀有な存在である。慣れ親しんだ山道を皆と歩く。岩石や地層を発見できる眼に驚く。それは膨大なデータから大胆な仮設を導き出すことと等価だ。インドとオーストラリアと南極と日立がつながっていた!と聞くと突飛でしかないが、大陸プレートの信じられない"漂流"は「数字(記録)を扱って、数字に現れないものを見る」と発言する彼には見えている。
鈴木さんは旧知の映画監督。鯨ヶ丘の街で架空のロケハンをした。正確には、脚本ができる前に街を見て"おや?"っとなる物事をハントした。どうやら「映画が道端に落ちている」らしい。小さく儚い欠片から、映画(世界)を見つめる。昭和レトロ、心霊/オカルト、町おこし、ツイン・ピークス的退廃などから自由な、「なにかが道をやってくる」映画を。
澤隆志